はじめに
以前「キルデスビジネス」というPvPシステムの紹介をした。
昨今のTRPGシステムではPvP要素はそれほど珍しくない。
今回紹介する「パラノイア:トラブルシューターズ」は、その元祖にして最狂と言っていいであろう、アクの強い(というかアクしかない)PvPシステムである。
例によって表を添付しよう。
◎ | どんなことをしても互いに笑い合える強固な友情をお持ちの方 |
〇 | 計略・謀略・口先三寸などが好きな人 |
〇 | 理不尽を笑い飛ばせる人 |
△ | 理不尽を許容できない人 |
1984年に出版されて以来、未だに「頭のおかしいTRPG」として挙げられる名作システムを是非とも体験してみていただきたい。
妄想と名ばかりの幸福に塗れた近未来都市
パラノイアの舞台となる「アルファコンプレックス」は、核攻撃から逃れるべく建造された、巨大な地下都市である。
その管理は超高性能(らしい)コンピューターに一任されている。
パラノイアとは偏執病(被害妄想を中心とした妄想性障害)のことであり、何を隠そうこのシステムでパラノイアに陥っているのは、このコンピュータなのである。
コンピュータは「現在地上は共産主義圏からの核攻撃を受けている」という妄想の元、アルファコンプレックスと外部との繋がりを完全にシャットアウトしている。
さらに「自分の行うことは全てアルファコンプレックス、ひいては市民の幸福のためになっている」「自分の行うことは市民を幸福にしているのだから、幸福ではない人間は市民ではなく反逆者である」(誇大妄想・支配欲求。これも偏執病の症状に含まれる)という妄想の元、トチ狂った都市運営を行っている。
自分の施策に不快感を示す人間は皆反逆者となるのだから、これ以上ない独裁っぷりである。
PCたちはこの狂った都市で「トラブルシューター」と呼ばれる、文字通りの揉め事処理班となってトラブルを解決していかなければならない。
えぐい足の引っ張り合い
パラノイアではシナリオの中でトラブルの解決に挑む事になっているが、PLが考えなければならない事は他にもある。
コンピュータは共産主義の他、非公式の秘密結社、特殊能力を持ったミュータントを危険視している。
しかしPCの殆どは非公式の秘密結社に所属しているし、特殊能力を持ったミュータントである事を隠している。
そしてPCは大抵トラブルに挑むにあたって、秘密結社からもミッションが課されている。
トラブルの解決に加えて、自らの素性を隠しつつ、結社のミッションにも対応しなければならないのだ。
ひどい場合、トラブルを解決させずにより大きな混乱を引き起こせというミッションであったりもする。
しかし抑圧されすぎているアルファコンプレックスにおいては、コンピュータに従うよりも結社の為に活動する方がマシな場合が殆どだ。
こんな具合に、一人一人が立場も目的もかけ離れた状況で、表面上は協力しつつも己の目的を果たすのがパラノイアの実際である。
※その情報は貴方のセキュリティクリアランスには公開されていません※
筆者自身がセッションの際にGMをすることが多いため、GM視点でのパラノイアについても触れておく。
パラノイアにおけるシステム上の特徴と言えば、「ルールが秘匿されている」という点である。
セッション中に何らかの判定が必要になったとき、通常はルールに則ってダイスを振り、その出目に応じてGMが結果を伝える。これについてはパラノイアも同じだ。
しかしパラノイアの場合、このダイスが公開されない。出目が公開されないどころか、どのようなダイスを振り、どういう出目であれば成功するのかも伝えない。
というか、「判定をする」ということすら伝えない場合もある。
というのも、「PLは判定ルールの一切を知っていてはならない」というルールがあるためである。
そのためPLはルール的におかしい部分が有ってもGMに意見することができない。
このルールは実際、GMの権限を異常に大きくしている。
そのため、パラノイアのGMはより真摯に「楽しい時間を過ごす」というTRPGの原則に忠実に、ルールと権限を行使しなければならない。
裏を返せば、GMが面白いと思ったセッション中の流れを、何にも邪魔されずに活かせるということでもある。
極端な話、もし貴方があるPLの動きに対して本当に面白いと思ったら、その判定のハードルを著しく低くしたり、それを妨害する他PLの行動に対して勝手にペナルティを付けてもかまわない、ということだ。
もちろん特定のPLにばかりそんな行為をすれば、セッション参加者全員が楽しい時間を過ごすことなどできない。
自分が面白いと思えることも大事だが、皆が面白いと思えるセッションのためにこの大きすぎる権限は行使されるべきである。
皮肉にもアルファコンプレックスのコンピュータと同じように、生殺与奪の権利を振り回して全員の幸福のために尽力するのがパラノイアのGMなのである。
おわりに
今回はパラノイアについて紹介をした。
システム全体の独特な雰囲気や、他システムのGMと比べて特殊な対応が必要な事など、初心者にはお勧めしにくい点がある。
しかしもし、大概の事を笑い飛ばせる友人があなたの周りにいるなら、この理不尽しかない世界を遊んで楽しめるはずだ。
このシステムを楽しめるなら、あなたのTRPG生活において、パラノイアは代わりの利かない唯一無二の魅力を持ったシステムになるだろう。